ある日突然、自宅に届いた一通の書類。差出人はプロバイダ、件名は「発信者情報開示に係る意見照会書」。心当たりがないまま開封すると、過去のSNS投稿について法的手続きが進んでいるという内容でした。回答期限は14日。慌てて弁護士に相談したところ、示談金や弁護士費用で100万円以上かかる可能性があると告げられた——。これは架空の話ではありません。2024年、発信者情報開示請求の申立件数は6,700件を超え、前年比1.7倍に急増しています。「匿名だからバレない」という認識は、もはや通用しない時代になりました。本記事では、開示請求の実態と老後資金への影響、そして保険を活用した備え方について解説します。
開示請求が急増している3つの理由
発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷や著作権侵害を受けた人が、投稿者を特定するためにプロバイダに情報開示を求める法的手続きです。この手続きが近年、爆発的に増加しています。
2024年上半期の申立件数は2,979件で、2023年上半期の1,575件から約2倍に増加しました。年間では6,700件を超える見込みです。なぜこれほど急増しているのでしょうか。
理由1:法改正で手続きが簡単になった
2022年10月に改正プロバイダ責任制限法が施行されました。従来は、SNS運営会社への開示請求とプロバイダへの開示請求を別々に行う必要があり、1年から1年半もかかっていました。改正後は1回の裁判手続きで両方に請求できるようになり、約3ヶ月で投稿者の住所や氏名が特定できるようになったのです。
理由2:誹謗中傷への社会的関心の高まり
2020年に起きた木村花さんの事件をきっかけに、ネット上の誹謗中傷が社会問題として大きく取り上げられるようになりました。2022年には侮辱罪の法定刑が「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」に引き上げられ、刑事責任を問われるリスクも高まっています。
理由3:著作権侵害の取り締まり強化
BitTorrentなどのファイル共有ソフトを使った違法ダウンロードへの開示請求も急増しています。2024年11月には、日本レコード協会が音楽ファイルの違法アップローダーに対する開示命令を勝ち取ったことが発表されました。著作権侵害の場合、損害賠償額は数百万円から数千万円、場合によっては数億円に達することもあります。
50代主婦が書類送検された衝撃の事例
「自分には関係ない」と思っている方も多いでしょう。しかし、実際に書類送検されているのは、ごく普通の中高年も含まれています。
タレントの堀ちえみさんへの誹謗中傷事件では、2019年に北海道に住む50代の主婦が書類送検されました。彼女がブログに書き込んだのは「死ね」「消えろ」といった言葉。取り調べでの供述は「みんな書いている」「なんとなく」というものでした。また、2021年には奈良市の無職女性が159回にわたって中傷を繰り返したとして書類送検されています。
タレントの川崎希さんへの誹謗中傷事件でも、30代の主婦と医療事務員の女性が侮辱容疑で書類送検されました。彼女たちも「なんとなく」「匿名だからバレないと思った」と供述しています。
重要なのは、これらの加害者が特別な悪意を持った人物ではなく、ごく普通の生活を送る一般人だったということです。軽い気持ちで書いた一言が、人生を大きく狂わせる可能性があるのです。俳優の西田敏行さんへの誹謗中傷事件でも、中部地方の男女3人が偽計業務妨害容疑で書類送検されています。SNSでの投稿は履歴が残るため、証拠隠滅が困難であり、一度投稿すれば完全に取り消すことはできないのです。





