離婚を考えたとき、「年金は半分もらえるの?」「手続きが遅れると損する?」と不安になる方は少なくありません。年金分割は、離婚後の生活設計に関わる大事な制度ですが、分ける対象や計算の考え方を誤解しやすいのも事実です。ここではビギナーの方でも迷わないように、年金分割の基本の仕組みと、計算の流れ(どこを見て、どう考えるか)をやさしく整理します。
年金分割で分けるのは「将来の年金額」ではなく「記録」
年金分割は、元配偶者から毎月いくらかを受け取る仕組みではありません。分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金(共済を含む場合があります)の「標準報酬月額・標準賞与額」といった保険料算定のもとになる記録です。年金事務所での手続きにより、この記録が当事者それぞれのものとして組み替えられ、将来の老齢厚生年金(報酬比例部分)の計算に反映されます。
そのため、年金分割は「離婚したら自動的に反映される」「今日から現金が増える」といった性質のものではありません。まずは「記録を分ける制度」である点を押さえると、全体像がつかみやすくなります。
分割できるのは厚生年金の報酬比例に関わる部分
分割の対象は、原則として厚生年金の記録です。国民年金(老齢基礎年金)の部分そのものを夫婦で分ける制度ではありません。たとえば、専業主婦(主夫)期間が長い方が不安を抱えやすいのは自然ですが、年金分割は「基礎年金を半分にする制度」ではなく、厚生年金の記録を分ける制度です。
また、企業年金や個人年金などは制度としての年金分割の対象とは別枠になることが多く、取り扱いはケースにより検討が必要です。まずは、公的制度として確実に押さえるべき範囲が「厚生年金の記録」であると理解しておくと混乱しにくいです。
年金分割には「合意分割」と「3号分割」がある
年金分割には大きく2つの型があり、どちらに当てはまるかで、決め方や計算の前提が変わります。
合意分割は当事者が割合を決める
合意分割は、婚姻期間中の厚生年金記録を、当事者の合意(または家庭裁判所の手続き)で定めた割合で分ける方法です。分割の割合(按分割合)は上限があり、一般に「最大で2分の1まで」の範囲で定めます。合意が難しい場合は、調停や審判などの手続きで割合を定める流れになります。
3号分割は一定条件を満たすと原則2分の1で分ける
3号分割は、婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者であった期間など、一定の条件に該当する場合に、相手方の厚生年金記録を原則2分の1ずつ分ける制度です。この場合、当事者の合意は不要とされています(ただし、制度上の要件を満たすことが前提です)。
計算の前に押さえるべき「按分割合」と「対象期間」
年金分割の計算は、電卓で年金額を割って終わり、というものではありません。実務では次の2点を固めることが出発点になります。
対象期間は「婚姻期間中の厚生年金の記録がある月」
分割の対象になるのは、婚姻期間中のうち、厚生年金の記録(標準報酬など)がある期間です。婚姻期間すべてが自動的に対象になるわけではなく、どの月が対象になるかで結果が変わります。まずは年金事務所で「情報通知書」などを取り寄せ、対象期間と記録の中身を確認するのが基本です。
按分割合は「最大2分の1まで」か「原則2分の1」
合意分割では、按分割合(どの割合で分けるか)を当事者で決めます。上限の範囲内で決めるため、必ず2分の1になるとは限りません。一方で3号分割は、制度要件に当てはまる期間について原則2分の1ずつで分けます。ここが、同じ「年金分割」でも結果の前提が変わるポイントです。
年金分割の「計算方法」はこう考える
年金分割の計算は、ざっくり言うと「標準報酬の記録を、対象月ごとに按分割合で分け直す」イメージです。細かな算定は年金事務所で行われますが、考え方は次の手順で理解できます。
手順1:分割に使う記録を確認する
年金事務所で、年金分割のための情報(対象期間、標準報酬月額・標準賞与額など)を確認します。ここで、どの月が対象なのか、記録がどれくらいあるのかを把握します。
手順2:按分割合を決める
合意分割なら当事者間の合意(または家庭裁判所の手続き)で按分割合を定めます。3号分割なら、要件を満たす期間について原則2分の1です。
手順3:対象月ごとに記録が分け直される
概念的には、各月の標準報酬の記録を「割合」で分けます。たとえば、ある月の標準報酬の記録をS、按分割合をr(0から0.5の範囲)とすると、分割後の記録はおおむね次のようなイメージです。
- 一方の記録:r × S
- もう一方の記録:(1 − r) × S
これは理解のためのイメージで、実際の処理は月ごとの記録や制度上の扱いに沿って年金事務所で行われます。重要なのは「将来の年金額を直接割る」のではなく、「元の記録を組み替える」点です。
手順4:将来の老齢厚生年金の計算に反映される
分割後の記録にもとづいて、将来受け取る老齢厚生年金(報酬比例部分)が算定されます。増減の出方は人によって異なります。たとえば、分割を受ける側にその後の就労期間があるか、厚生年金加入期間がどれくらいか、婚姻期間中の記録がどの程度か、などで結果は変わります。
熟年離婚で損しないための注意点は「期限」と「確認の順番」
年金分割でつまずきやすいのは、計算そのものよりも「期限を過ぎる」「情報を見ないまま割合だけ決める」といった段取りのミスです。
請求期限は原則2年、制度改正で5年になる時期にも注意
年金分割は、当事者で話し合って終わりではなく、年金事務所での請求手続きが必要です。現行では請求期限は原則として離婚等の翌日から2年以内とされています。
一方で、制度改正により、離婚時分割の請求期限の伸長(5年)について、施行日が2026年4月1日とされた旨が公表されています。どの期限が適用されるかは離婚等の成立時期で変わるため、手続きを検討している場合は早めに年金事務所で確認するのが安全です。
先に「情報通知書」を見てから合意内容を固める
年金分割は対象期間と記録の内容で結果が大きく変わります。離婚協議書や公正証書に書く前に、対象期間と記録の見通しを確認しておくと、後から「思っていた前提と違った」というズレを減らせます。
不安がある場合は年金事務所で具体的な見込みを確認する
年金は個別性が強く、年齢、加入状況、婚姻期間、記録の状態で結果が変わります。「自分のケースだとどうなるか」を知りたい場合は、年金事務所で分割後の記録や手続きの流れを確認すると、過不足なく進めやすくなります。




